メキシコ国境へと続く道沿いに、不意に姿を表す巨大な建造物の群……。
西海岸の都市で最も被害の少なかったこの街は、破壊されつくした北部の街や、大戦後の混乱期にメキシコから流入してきた避難民達を呑み込み、西海岸に存在する最大の都市に成長している。
今ではサンディエゴと言えば本来の旧市街ではなく、この二十年ほどの間に出現した、真新しく巨大な新市街の事を指すようになっている。
ただし、真央が住むのはそちらの新市街ではない。
その旧市街のアパートメントの住人は、大半が英語を母国語としない人々である。
つまり真央も含め、最近勢力を伸ばしている古くて新しい、いわゆる非合法政治結社の構成員からは、確実に雑種呼ばわりされる者ばかりなのだ。
このアパートメントでは毎日朝から最低六つの国の言葉が飛び交い、食事時にはここがアメリカだとは信じられないほど複雑な、ハーブとスパイス(味噌と醤油も!)の香りに包まれるようになる。
生粋のアメリカ人――人種ではなくアメリカ文化しか知らない者達――の多くは、この香りに耐えきれず逃げ出してしまうほどだ。
が、真央にとってはどの香りも思わず食欲を誘われる日々の楽しみの1つでしかない。
しかし、この日に限ってはその香りが真央に小さな不安を掻き立てる。
タイで出会い、シンガポールで再会し、共にバリ・ロンボクを旅した運命の人――。