Prologue

バリ島
ウブドゥ

 緑の木々が揺れ風を運ぶ。

 ベランダへ続く大きな窓から川の流れが聞こえ、遠雷が夜の訪れを告げる。

 心地良さと気だるさの混じった深い眠りから、ゆっくりと覚醒してゆくと、寝ている男を起こさないようにそっと半身を起こす真央。

 森と花の香りに包まれた真央の身体から、ベッドの上に撒き散らされていた、赤い花弁が舞い落ちた。
 
  足元でくしゃくしゃになっていたシーツを引き寄せ、男に被せると、自分はそのまま白く形の良い足を揃えて抱き締める。 
  白い蚊帳の吊るされたキングサイズのベッドに座り、何故か懐かしい、夕闇に溶けゆく乳緑色の田園風景の広がりを見つめる真央。

 午後の雨が作りだした霧がゆっくりと、しかし着実に澄み渡ってゆく。

 コテージに続く石畳みに延々とと並ぶ灯篭へ、ひとつ、またひとつと明りを灯して歩く白い影が、まるで虚ろな幻を視ているようだ。

 父親譲りの複雑な色調の青い瞳は、移ろう景色をひたすら見つめ続ける。

 近くを流れる渓流のざわめき、そして微かなガムランの調べ。
  その全てを圧倒するように聞こえてくる、騒々しいくらいの蛙の歌声、虫達の美しい囁きに、子供のしゃっくりにも似たゲッコーの愛らしい声。



拍手する