BVR
『ディナ』
目標の空港から一〇キロ近くは離れているだろう。
ちょうど目標とブラジルとの中間地点である。重機によって切り開かれた、ジャングルの赤い大地に造成された火力陣地。その、射撃の始まった火力陣地の直ぐ脇に、一体の装甲歩兵が佇んでいる。
チタン合金の骨格にカーボンチューブの筋肉、CFRP(=Carbon Fiber Reinforced Plastics)の外殻に、各所へ特殊装甲を貼り付けた形の、かなり凄みのある外観の対機動歩兵用戦闘兵器である。
ただそのごつい見た目とは裏腹に、機体そのものは非常に軽い。
戦闘機動時には加圧缶内で燃料を燃やし、動力タンクの圧搾空気を更に加圧し道管に送り込む事で駆動するが、ブースト時には道管内で直接燃料を燃焼させ、文字通り爆発的な運動性能を引き出す事も出来る。
また人の呼吸音程度しか音を立てないとされる隠密行動時には、圧搾空気タンク内の空気だけ、もしくは放熱に気を使わずにすむ場合には水蒸気も使われる。
ただし動力タンク内の圧搾空気だけでは、戦闘機動を行った場合僅か五分程度しか保たないし、省力機動でもおよそ三〇分ほどしか動けない。
開発計画が持ち上がった当初の期待――無敵の対人人型兵器――とは全くかけ離れた存在となってしまった兵器であるが、だからと言ってそれは、この種の人型機動兵器の有用性とはまた別の話となる。
市街地や森林、山岳部等では、高価な多脚型戦闘車両(車輪は無いがそう呼ばれる)の投入が難しい――物理的、技術的、戦術的、戦略的、政治的又は経済的に――場合、装甲歩兵の従来型兵器群に対する、圧倒的では無いまでも、その相対的な優位性は用兵側にとっても魅力的であった。