DEFCON 1


  それから並ばすに配給を眺めていた理由も。

「なんでパスポートを確認するんでしょう?」

  もちろん正樹にわかる訳がない。
  一応乗客が二重に配給を受けたりしないようにするためとは言っていたが、昨夜と同様、乗客リストと受け取った際に手の甲に油性の太ペン(トンボ製だった)で線を引く事で十分だったはずである。

「言われて見れば、確かに嫌な感じだね」

「えぇ、なんだか……ね?」

  互いにぎこちない笑みを浮かべて見詰め合う。

「ま、仕方ないさ、並ぼう。あ、そうだ、僕の名前は柴崎正樹、正しい樹の正樹。よろしく」

「私は坂下久美、久しく美しいでクミ。よろしく」

  久美の右手はひんやりしていて、とても柔らかだった。

  日本人で学生、それだけでこれほど親密な感じになれるとは、思ってもみなかった正樹であった。久美は埼玉、正樹は千葉県在住だったが、殆ど地球の真裏にまで来ている事を思えば隣街に住んでいたのと変わらないという事もある。

  久美は卒論でブラジルの日系人移民について書く予定で、その取材兼ちょっと早めの卒業旅行。
  正樹は卒業後に叔父がサンパウロで経営している商社に入る予定で、その研修兼、やっぱり少し早めの卒業旅行といったところだった。



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