Prologue
一瞬で音速を超えたクレイモアは、その速度と質量から生み出される凶悪なまでの圧力を、炭素分子にしてわずか一個分の幅に集中させ、
高速・高圧状態の微少世界において全く違った物理的振る舞いを見せる装甲に対し、過剰なまでの運動エネルギーを開放。 ほとんど一切の抵抗なくその先端を潜り込ませた単分子炭素ブレードは、加速度の変化と共に砕け散り、タングステン合金の刃が、運動エネルギーの一部を熱に変化させてその身を溶かしつつ、まるでプリンを砂糖細工のナイフで切り裂くようにしてもぐりこんでゆく。
もちろん人に知覚可能な事象といえば二つだけだ。
衝撃と破壊音。
クレイモアを振り抜きざまにすれ違い、同時にペダルもラダーもニュートラルに戻し、左手の姿勢制御を親指で切り替えて――伏せる。
機体が伏せた時の衝撃に、ベルトが身体に食い込む。
その痛みに、思わず舌打ちを漏らす正樹。新型のボディアーマーが柔らか過ぎるのだ。
バックモニターには、右腕ごと胴体部分の三分の二近くを叩き斬られた、敵アーマーの残骸が見えた。
パイロットは恐らく即死だろう。
動力は停止し、凄まじいい勢いで圧搾空気が漏れ出しているが、導管の破損時に、時折発生する爆発は無かった。
息をつく間もなくラダーを引き上げ、姿勢制御バーを引いて中腰にする。
熱源探知。
一番近い敵に向けて移動を開始する。