Minus 424
「いいでしょう、では更に社則にも違反した事は知ってますね?」
「はい、でも私は自分が妊娠してるなんて知らなかったんです」
「おや、まさか妊娠するような事もした覚えはないとは言いませんよね?」
「そんな、――とにかく用件を言って下さい!」
「ではミス・ヤナセ、率直に申し上げます、貴女の行為は、最悪の労働災害に直結する重大なミスであり――」
と、ミセス・アッシャーが率直というには、あまりにも婉曲な言い回しで伝えた内容といえば、規則上真央は解雇の対象となる事、結果として何事もなかったので、会社側の温情として、自己退社した場合は連邦法及び州法に対する違反については告発しない。そういったことであった。
要するに、真央はこれまでの会社への貢献(様々な特許など)に対する権利放棄と引き換えに、無罪放免にする。そういう事であった。
一瞬気が遠くなった真央に、書類を提示しながら、一切の反論を許さない、徹底的に事務的な態度で続けるミセス・アッシャー。
「当然自己退社の意思が見られない場合は告発の手続きがとられますし、告発を受けた場合は、遺伝子保護法上の一般的措置として、胎児の処分命令が下されるでしょう」
さも当然と言わんばかりのミセス・アッシャーに、真央はこれまでの人生で感じた事のない激しい怒りを覚え、全身に震えが走る。
が、それも一瞬だった。
悪名高い、遺伝子保護法に関する無数の付帯条項のいくつかを思い出したのである。