Minus 426
“わかりかねます、タロウ氏にお聞きしてはいかがですか?”
“充電してもよろしいですか?”
指先でOKを伝えると、アトムは律義にお辞儀して電源のあるベースへ歩いて行く。
因みにアトムの言う『タロウ=太郎』は真央のペットの陸ガメの名前である。
アトムは、この部屋の見えない場所に『タロウ』という人物が暮らしているのだと、完全に誤解したまま認識してしまっているのだ。
真央がいつも太郎に向かって話しかけているからであるが、最近の自律機械はペットと自分が確認出来ない場所にいる人物との差くらい認識するし、コンシェルジェ機能が付いた機体の場合、最新のファッション・コーディネートから化粧のアドバイス、各種チケットの予約やらタクシーの手配に簡単な料理までこなせるのだが……。
真央はこうした小さなミスを繰り返すアトムが気に入っている。
ただ英語を認識しない事と、バッテリーが切れるのが早い事、制御装置のバージョンアップが、無償・有償共に八年も前に終了している事が多少気掛かりではあった。
要するに寿命……というか、寿命を遥かに超えた骨董品なのである。
現実逃避を諦めて、真央はもう一度ため息をもらす。
「……こんなに。支払いは大丈夫なのかしら?」
もちろんアトムの答えは無かった。
真央はしばらく――といっても一分にも満たない時間であったが――呆けていたらしい。
不意に窓の外からクラクションの音が響き、大きな声が響いてくる。