Minus 426
肉の主菜は赤ワインと、厚く切った牛のフィレ肉をミディアムで焼き、焙ったフォアグラを乗せ、マスタードをちょっぴり入れた店の自慢のソースをたっぷりかけて、粒の胡椒をひと摘み、生クリームを数滴。刻んだパセリを散らして、付け合わせに真っ白なマッシュポテトとアスパラ、クレソン、甘い人参。仕上げに目の前で給仕がレモンを絞る。
それが絶妙の加減なのだ。
まさにナイフを入れるのが恐ろしくなるような料理だった。
……残しはしなかったが。
全てが本物の材料で作られた特注品で、全てに人の手による給仕が付いていた。
流石に産地の大半が汚染され尽したワインだけは合成品を注文していたが、肉料理が出る時にオーナーの料理長自らがやって来て、彼の個人所有品である年代物のチリ産の赤ワインを出してくれた。
「綺麗ね」
素晴らしい料理とキャンドルの灯り。星の輝きとそよぐ風、潮騒と黒々とした太平洋。
幽かに聞こえているノスタルジックなジャズのメロディーは、前世紀の名曲達の数々。
恐ろしく音質が悪いが、アナログの原盤の曲をそのまま流しているのだ。
物悲しくもすばらしい黒人歌手の声。
“誰がわかるというのだろう?”
“私達の苦しみを……”
音楽と料理の余韻に浸っていると、人間の給仕が押す巨大なワゴンに載せられた、恐らく今日二人の為にのみ用意された、小さな無数のデザートが現れた。
再び場違いな不安にかられる真央――。